EPIC2014とサピエンス全史に、僕の頭の中でリンクが貼られた


友人との集まりで「これからの社会がどうなると思うか、自分なりの考えを話してほしい」と言われ、それぞれ異分野で高い見識をもつ数名の中で、わざわざ「僕が」何を話すか考えていた時のことだ。頭の中で、EPIC2014の1文と、ノア・ハラリの「サピエンス全史」の1文の間にリンクが張られた。自分の中では、前から気になっていた2つのことが結びついた気がしたので、メモとしてとどめておきたい。



サピエンス全史はベストセラーで知っている人もかなり多いと思うので後回しにし、まず、上にある EPIC2014だ。これは、今から15年前、2004年にWeb上にFlashムービーとして公開された、ネット発展とメディアとの関係に警鐘を鳴らす8分程度の動画で、今はYouTube上で見ることができる。今観ても、かなりの衝撃があるだろう。パーソナライゼーション、プライバシーなどは近年、ますます重要になり、テクノロジー発展の副作用としてフェイクニュースが氾濫するなどの現在の世界の課題と重なり、現実はこれよりも悪い方向に行っていると感じる部分も多い。内容は言葉で説明するより観てもらった方が圧倒的に早いので背景だけ説明すると、これは、Amazonの検索エンジンA9の開始、GoogleのIPOなどの出来事があり、ネットが急発展していた2004年に発表されたムービーで、Web発明からその時期までの事実と、そこから考えられる(現実性はあるものの好ましいとは思えない)架空のシナリオをシームレスにつなげたものだ。そして最後のシーンは「しかし、EPICは私たちが求めたものであり、選んだものである。」という言葉で終わっている。


冒頭で、僕が話す意味があると書いたのは、僕自身はこのムービーのキーアイテムの1つであるGoogle Newsの開発に、あくまで結果論で、なおかつ間接的ではあるものの非常に深い形で関係した→ 経緯は「ついに明かされるGoogle Newsの秘密」の冒頭部分で登場している)こともあり、EPIC 2014を初めて目にしたときに、自分がおぼろげに持っていた危惧と合致し、Google Newsの開発者であるKrishna Bharatとも何度も話したのだ。そして、最後の「 しかし、EPICは私たちが求めたものであり、選んだものである。 」と言う言葉は、「本当にそうなのか?」と今もよく思い出す。


そして、「サピエンス全史」だ。ベストセラーとは言え、全部読んだ人はあまり多くないかも知れないし、その後に続く「ホモ・デウス」および「21 Lessons for the 21st Century」を読んでいるかどうかにもよるし、人によって捉え方は違うだろう。その中で僕が一文だけとりあげるとすれば、最後の「私たちは何を望みたいのか?」である。遺伝子操作によって、人間が生物学的な意味での「人間」自体さえも意図的に変える力を持ち始め、人間の欲望さえも実は生物学的、化学的な相互作用の結果でしかないことがわかってきたときに、「私たちは何を望むのか?」ではなく「何を望みたいのか?」 という問いさえも、意味を持ってきている。 (つまり、人間が持つ欲望さえも科学的にコントロール可能なものになる


ネット、SNS、IoT、AIなどさまざまな技術が発展することで社会はすさまじいスピードで変わっている。もちろんそれによって期待できるメリットは大きいが、当然、副作用もあり、それを理知的にコントロールしていくことは必須だ。EPICは「 しかし、EPICは私たちが求めたものであり、選んだものである。 」 と言っている。それは、ある面では正しいが、必ずしもそうではない。人間の集団としての社会は、個々の人間から見れば、(ほとんど)誰も望んでいないない方向に進むことがあり得る。


そして、ノア・ハラリは 「私たちは何を望みたいのか?」 という問いを投げている。それは単純な質問ではなく、「自分たちが望むものさえもコントロール可能になってしまうことを望むのか?」というトートロジーにもなっている。


結論はないけれど、僕の中で EPIC 2014とサピエンス全史の間にはリンクが貼られた。そのリンクが何を意味するのか、これからもたびたび考えることになるだろう。

T. Kamba (神場知成)

人間・機械融合系コミュニケーションシステムのデザインに興味を持つ。コンピュータ・サイエンス分野で、メーカー系研究所の研究員を経て、現在は東洋大学 情報連携学部 教授。専門はユーザ・エクスペリエンス・デザインなど。 趣味は音楽全般。特に自分でも演奏するピアノを中心にジャズ、クラシック。ジャズはミシェル・ペトルチアーニ、ビル・エヴァンス等。クラシックはバッハ、フィリップ・グラス、ブラームス、グレン・グールドなど。

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