アンケートUIで世界が変わる?

アンケートUI(ユーザインタフェース)というのは適当なオリジナル用語だが、要するに、「あなたは、りんごが好きですか?」というアンケートをするのに、選択肢として「YES/NO」の2つを並べるとか、「どちらでもない」を加えるとか、1 ~ 5の5段階で数字を選んでもらうとか、それをWeb上でスライダー表示するとか考えられるなかで、どういう方法を用いるかということである。これによって「世界が変わる」というのはずいぶん大げさに聞こえるかもしれないが、僕自身は、それなりに影響は大きいと思っている。


少し丁寧に説明しよう。さて、リンゴの好ききらいであれば、たぶん世界は変わらないわけだが、下のようなアンケートだったらどうだろう?あるとき、世論調査をやるとして、1)から3)のどのパターンで質問を投げるかによって、何が起きるだろう?



ここでは世論調査と書いたけれど、当然、なにかを決める重要な投票であることもあるだろう。1)と2)もだいぶ違うが、ここで 2)と3)を比べてみよう。2)のパターンというのは、世論調査はさておき、一般のアンケートでは結構よくある質問形式だ。このとき「わからない」という回答を選ぶ人に、次のような極端な2つの場合が含まれていないだろうか?


  • まったく知らないし、興味もない
  • 非常によく知っているが(逆に、そうであるがゆえに)、長期的影響、国際情勢などを総合的に考えて、現時点で賛成反対を選ぶことはできない


問題なのは、「はい」と「いいえ」が対極的であるのと同様、この2つも対極的だということだ。前者は、たとえば政策決定にあたって、あまり参考にならない人であるのに対し、後者は、ことによると「はい」や「いいえ」を選んだよりも、さらに重要な見解をもっている人かもしれない。


3)の質問形式を選んだとすると、上で示した2つの対極的なタイプの人がどれくらいいるかという傾向は、少しアンケート結果に現れてくるだろう。そして、仮に「どちらともいえない」という人が多かった場合、政府が力を注ぐべきは、たとえば識者の意見をもっと聞くべきことだろうし、「よく知らない」という人が多かった場合は、やるべきことは、もっと政策を国民に知ってもらうことかもしれない。


さて、ここで書きたいのは、政策云々ではなくて、要するに、こういうものをアンケートUIと呼ぶならば、アンケートUIというのはものすごく重要で、ひょっとすれば「世界を変えるかも知れない」ということだ。そして、上ではとりあえず、単純な3つの質問形式だけ示したのだけれども、同じ質問であっても、まだ多くの表示方法が考えられる。


Brexitじゃないけど、投票やアンケートというのは世界を変える。そして、そこまで大きな話をしなくても、たとえば企業における従業員アンケートの結果は、経営者が経営の参考にすることを考えれば、なんとなく従来の慣例にそったアンケート形式をとったり、場合によってはメディアが意図的に結果を誘導するようなアンケート形式をとったりすることに対して鈍感だったりするのはまずいだろう。


何かを決定する際に「投票で決めよう」とか「アンケートをとろう」ということを決めたり、その質問項目はちゃんと議論されたりする場合が多いのに対し、そのアンケートUIをどんなものにするかというのは、案外、安易にアンケート制作者にゆだねられていたりする場合が多いと思っている。そして、その制作者さえも、たとえばWebであれば、ラジオボタンとかドロップダウンとか、あらかじめ標準部品として用意されているなかで使いやすいものを、深く考えることなく使っている場合も多いだろう。


さらに言うなら、上の「アンケートをとろう」などというのが、それなりに考えられたうえで行われる、というのも実はうそかも知れない。たとえば「〇〇は許されるか?」というような本来は慎重な議論を必要とする問題が、何かあるたびにあっという間にtwitterなどで、まるで二者択一のアンケートのように行われ、およそ〇〇とは縁がなかったり、まともな情報を持たない人までが参加して行われ、その積み重ねで世界の分断が深まっているといっても良い。この話はキリがないので、ここではやめておこう。


さて、冒頭に示したのは紙でのアンケートを想定したような表示方法だが(Webであれば “□” は単一選択ではなくて複数選択だから、あの表示はおかしい)、Webを用いるならさらに、さまざまなインタラクティブな表現も考えられる。それを使いやすい標準部品にして、アンケート制作者が「とりあえずこれを使うか」というように選ぶことが増えれば、それこそ、世界の分断をやわらげるのに役立つかも知れない。たとえば冒頭の質問を、下のようなUIにしてみたらどんな結果が得られるだろうか? 下記は触ることができるので、このような選択方法で回答が可能かどうか実際に触って試してほしいが、実はこれについては、すでにある程度の実験結果も得られているので、今度紹介したい。

インタラクティブなアンケートUI(筆者考案による)の利用例

あなたは政府の経済政策に賛成ですか?

T. Kamba (神場知成)

人間・機械融合系コミュニケーションシステムのデザインに興味を持つ。コンピュータ・サイエンス分野で、メーカー系研究所の研究員を経て、現在は東洋大学 情報連携学部 教授。専門はユーザ・エクスペリエンス・デザインなど。 趣味は音楽全般。特に自分でも演奏するピアノを中心にジャズ、クラシック。ジャズはミシェル・ペトルチアーニ、ビル・エヴァンス等。クラシックはバッハ、フィリップ・グラス、ブラームス、グレン・グールドなど。

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