ターゲティング広告の新展開に思う

言うまでもなくインターネット広告、特にターゲティング広告は今や世界のメガビジネスで、それが直面している最大の課題はプライバシー問題だ。これに関する最近の動向を見ていて、自分の昔の研究経緯を整理しておくと、関係者の参考になると思ったので簡単に整理しておく。すべて書くとあまりに話は長いので、とりあえず主なものだけとし、その他の詳細はそのうち少しずつ別稿を書こうと思う。


あらかじめ書いておくと、これはなんら特許的な権利を主張するものではない。そうは言っても商品開発などとはちがって特許は「誰がいつ、最初にやったか」ということが後々までものすごく重要で、知りたい人がいると思うので、論文の時期を明記した。これらは特許出願なしで論文として公知になったか、すでに特許権が切れているものばかりなので、関係者にとっては「この時点では、こういうものが最先端として公知になっていた」という参考になるだろう。


まず、2022年1月27日時点、最新の業界動向

Googleが、広告ターゲティング業界とプライバシーに関する多くの問題をふまえ、第三者クッキー(サードパーティー・クッキー)の問題を回避する方法として2019年にFLoCを提案。これにもいろいろ問題がありうまく進みそうもなく、2022年1月25日に新しい方式としてTopicsを提案。これは大雑把にいえば「ユーザが回遊するウェブページから、ユーザ興味をキーワード群として把握し、そのときどきに応じて適切なキーワード複数を第三者サイトと共有する」という方式。


さて、僕自身が行ってきた研究からの抜粋

1995年12月

ユーザがWebページを見ると、ブラウザに送りこまれるスクリプトがその閲覧状況を把握し、どういう記事を見ているかということをサーバ側でキーワード群として把握して、ユーザプロファイルとして蓄積。それにもとづきページを動的にパーソナライズするオンライン新聞(The Krakatoa Chronicle – An Interactive, Personalized, Newspaper on the Web 。1995年12月にBostonで行われた国際会議WWW conferenceで発表。上図参照)。僕は当時ジョージア工科大学の客員研究員としてこの研究を主導した。この論文を一緒に書いた、当時は博士課程の大学院生で第二著者のKrishna Bharatはその後Googleに入社し、2011年にGoogle Newsを開発。その2つの関連性をインタビューで言及している。彼とは今でも親しい。 → 「ついに明かされるGoogle Newsの秘密

補足だが、このときに僕が留学先にいたこともあり特許出願をせずにこの論文を公知にしたことは、僕の知らないところでいろいろな影響があっただろうと推測している。


1999年5月:

僕は1995年に留学から帰国し、所属企業で研究チームを率いたが、クッキーによるターゲティングはプライバシー上の懸念があるとし、チームでは「クッキー問題を避けたWeb広告ターゲティング手法(Unintrusive customization techniques for Web advertising)」という論文を1999年5月にComputer Networks誌に発表。「ユーザがどういうキーワードで検索したかや、どういうカテゴリーを閲覧しているか」ということと「どういう広告をクリックするか」の関連性を機械学習の手法で最適化することを提案。

なお、この当時には検索連動広告 AdWordsやコンテンツ連動広告 AdSenseの影も形もなく、それらの前身となるOvertureのサービスが開始されたのは2002年である。1999年時点の事情は、当時、情報処理学会誌の解説記事に書いた。すでにオープンアクセスになっていて誰でも無料でダウンロードできるので、興味がある方は読んでみるとおもしろいと思う → 「Web上の広告におけるターゲティング手法」。


2002年12月

ここからは、上記の話とは少し離れてくる。同じく我々の研究チームでは、「短い動画に長いCMを挿入したりするのはユーザの迷惑になるので、ネット動画に挿入する動画CMの時間長を、個人の視聴履歴によって制御する」という論文を 2002年12月にACM Multimediaの国際会議で発表(→ Personalized advertisement-duration control for streaming delivery)。ちなみにこの当時、YouTubeの影も形もない(YouTube開始は 2005年)


こうしてみると、インターネット広告業界がたどっている道を、僕は期せずして、かなり先どりしたなという気がする。今は、ユーザエクスペリエンス分野でIoTやメタバースと関連が深い方向の研究にシフトしている。

T. Kamba (神場知成)

人間・機械融合系コミュニケーションシステムのデザインに興味を持つ。コンピュータ・サイエンス分野で、メーカー系研究所の研究員を経て、現在は東洋大学 情報連携学部 教授。専門はユーザ・エクスペリエンス・デザインなど。 趣味は音楽全般。特に自分でも演奏するピアノを中心にジャズ、クラシック。ジャズはミシェル・ペトルチアーニ、ビル・エヴァンス等。クラシックはバッハ、フィリップ・グラス、ブラームス、グレン・グールドなど。

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