シェパードトーン、あるいは永遠ということ 

村上春樹風のタイトルにしてみました :-)

コンピュータ・ヒューマン・インタラクションというのは、たとえばコンピュータやスマホを使いやすくする方法など、コンピュータと人間との関わり方を扱う分野である。最近は産業的な重要性が非常に大きくなっているが、狭い意味でのテクノロジーだけではなく心理学や音楽など、いろいろな分野にまたがった知識が必要になることが多い。たとえばPCの操作をすると、クリック音などちょっとしたサウンドが鳴ることが多いが、その設計をしようと思えば、人間の心理も考慮する必要があるし、サウンドに関する知識も必要である。

ところで下記は、人が永遠に階段を昇って(下りて)いるように見える、エッシャーの「上昇と下降」という 有名な”だまし絵” である。試しに「この絵からイメージできるサウンドをプログラミングせよ」という課題を考えてみよう。ここで言うプログラミングとはコンピュータプログラムを書くことで、つまり、なにか一定の規則に基づいて音の周波数や大きさをコントロールし、自動的にサウンド生成をしようということである。

エッシャー「上昇と下降

何かイメージできたら、ここでちょっと次のサウンドを聴いてもらいたい。

Shepard Tone (YouTubeより)

類似性を感じるのではないだろうか。これはシェパード博士という認知科学者が考えた、「オクターブの間で、異なる周波数の音を混ぜ合わせる比率を周期的に入れ替えていくと、永遠に音が高くなっていくような気がする」というもので、プログラム的な生成が容易である(詳細はこちら)。

このような知識や考え方を身につけることがコンピュータ等のインタフェースにどう役立つのかと思うかも知れないが、実は産業的にも役立っていて、たとえば、ゲーム「スーパーマリオ」では、「無限階段」という、マリオがずっと階段を上るシーンで使われている。

スーパーマリオ「無限階段」のサウンド(YouTubeより)

最近の人工知能(ディープラーニング技術)を使えば、こういう、状況にあったサウンド生成なども徐々に自動化されていくかも知れない。

T. Kamba (神場知成)

人間・機械融合系コミュニケーションシステムのデザインに興味を持つ。コンピュータ・サイエンス分野で、メーカー系研究所の研究員を経て、現在は東洋大学 情報連携学部 教授。専門はユーザ・エクスペリエンス・デザインなど。 趣味は音楽全般。特に自分でも演奏するピアノを中心にジャズ、クラシック。ジャズはミシェル・ペトルチアーニ、ビル・エヴァンス等。クラシックはバッハ、フィリップ・グラス、ブラームス、グレン・グールドなど。

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