Forget-me-notプロジェクト

1990年代にRank XeroxのEUROPARCで行われていたForget-me-notというプロジェクトは、ユビキタスコンピューティングの初期実践としてかなり先進的なものだったと思うが、あまり知られていない。(以下、あやふやな記憶で書いているので、多少の間違いなどが含まれるかも知れない。誤りがあれば、後日、直していきたい)

 

当時、Xerox PARC(パロアルト研究所)はユーザインタフェース分野でトップレベルの研究機関として知られ、そのヨーロッパオフィスであるEUROPARCも、米国とは少しトーンの異なる先進的な研究で知られていた。Forget-me-notは、「所員全員がバッジを身に着け、それを各部屋のセンサーで把握し、自分の行動履歴のサマリーを、各自がいつでもグラフィカルに見ることができる」などの機能を持っていたものである。

 

このプロジェクトは残念ながら、関連するメジャーな国際学会に論文がなく、唯一、きちんと発表があったのは、1994年に日本の目黒雅叙園で行われたFRIEND21という国際シンポジウムだけである。

下記がその論文、というかテクニカルレポートである。

http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.1.6966&rep=rep1&type=pdf

 

まずは、プロジェクトリーダだっと思われるMik Lamming氏がYouTubeに映像を投稿しているので、それを見てほしい(視聴数が驚くほど少ないことが、プロジェクトが無名であることを物語る)。

 

なぜ筆者がこれをよく覚えているかと言うと、話は1991年に遡る。当時、ヨーロッパで学会に出席した筆者は、ついでにEUROPARCを訪問したいと思い、連絡をとったところ対応してくれたのがMik Lamming氏であった。

 

当日、先方に着くと同氏はいきなり、

「先日、うちの研究所からこれを発表したので、後で読んでおいてよ」と言って、Scientific American誌を一冊くれた。なんとこれが、ユビキタスコンピューティングという言葉を広げた、Mark Weiserの歴史的論文「The Computer for the 21st Century」だった(この雑誌が、いつの間にか所在不明になってしまったのが残念)。

https://www.lri.fr/~mbl/Stanford/CS477/papers/Weiser-SciAm.pdf

説明をしながらLamming氏が繰り返す Ubiquitous という言葉を斬新と感じたが、その瞬間に真価を見抜けたかと言われると、言葉に詰まる。

さて、そうこうしてLamming氏とあれこれ議論をして、帰り際に、「今度日本にいらっしゃるときは、是非またお会いしましょう」と言って、別れたのだった。

 

そして冒頭の1994年になり、来日するLamming氏を、私は当時勤務していた企業の研究所にお呼びし、研究活動などについて議論をしたのだが、不思議なことに、このときにどういう議論をしたかの記憶がほとんどない。現在はEUROPARCはないし、Lamming氏の所在も知らないのだが、もう少し有名になっても良いプロジェクトだった。

T. Kamba (神場知成)

人間・機械融合系コミュニケーションシステムのデザインに興味を持つ。コンピュータ・サイエンス分野で、メーカー系研究所の研究員を経て、現在は東洋大学 情報連携学部 教授。専門はユーザ・エクスペリエンス・デザインなど。 趣味は音楽全般。特に自分でも演奏するピアノを中心にジャズ、クラシック。ジャズはミシェル・ペトルチアーニ、ビル・エヴァンス等。クラシックはバッハ、フィリップ・グラス、ブラームス、グレン・グールドなど。

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